ニック(2)
また元気なニックに戻りました。
獣医さんは、あのような状態からの回復は想像できなかったと言ってました。
その後、回復してからはいつも通りになり、
クロと同じで、どこに行くにもニックは一緒でした。
ただ、不思議と剣道着に着替えて道場に行く時にはついてきませんでしたね。
自分は連れて行ってもらえないところ、
または、ついていかなくても良いところとでも思っていたのでしょうか。
そして、僕が小学6年生になった時、もう1匹「コッカースパニエル」が、我が家にやってきました。
振り返ると、今まで僕は「オス」の犬を飼ったことがないんですね。
その子には「ベル」という名をつけました。
ニックも赤ちゃん犬「ベル」を可愛がっていましたが、
僕もまだ子供でしたので、ニックへの気遣いができていなかったように思います。
犬は、ヤキモチを焼きますからね。やはり子犬は可愛いわけです。
ずいぶん我慢をさせてしまっていたんだろうなと、今でも、そのことを後悔しています。
そして、僕は中学生。
中学になって、すぐの6月ごろだったかな。
父からの家族会議がありました。
「お父さん、今、転勤を命じられてる。お父さんの仕事は自衛官だから、転勤命令が出たら絶対だ。
沖縄か北海道の千歳駐屯地が候補。どっちに行きたい?」
僕が決めることになりました。
「千歳に行ってスキーがしたい」
そう決めたのには、もう一つ理由がありました。
沖縄が日本に返還になる前で、まだアメリカだったからです。
その頃は、もう日本に返還になることは知っていましたが、
そのゴタゴタの中に居たくないという気持ちもあったのだと思います。
北海道まで、父が車を運転することに決まりました。
当然、ニックもベルも一緒だと思っていたのです。
ニックを福岡に残すことを聞かされたのは、転勤1ヶ月前でした。
「小さな車にニックを乗せていくのは無理だ。ベルだけにする」
ワナワナ震えたのを覚えています。
その転勤前の1ヶ月間、ニックにはできる限り優しく接しました。
でも、伝わるんですよ、犬には。何かが起ころうとしていることが・・・。
ニックと別れる2週間前のことだったでしょうか。
近所の住人が駆け込んできたのです。
「お宅の犬が暴れてます!!止めてください!!」
驚きました。本当に驚いた。
あの優しいニックが、その飛び込んできた家の飼い犬の首に噛み付いているのです。
動物は本能でわかっています。首とハラを攻撃すれば、相手の息の根を止めることができることを。
僕が、どんなに静止しても言うことを聞かなかった。
もう、止められないのです。
ニックにとっては、時々一緒に遊んでいる犬でした。
ありえません・・・。
その喧嘩は壮絶でした。
昔の犬は放し飼いでしたので、たまに犬同士の喧嘩は見たことがありましたが、
ニックの喧嘩は見たことがありませんでした。
しかし、今、僕の目の前で興奮状態になっている猛犬は間違いなくニックなのです。
相手の首に噛み付いたニックが何度も何度も体を回転させるのです。
ワニが噛みついた獲物を引きちぎるときにやるような光景でした。
僕は、数回止めに入ったのですが、その喧嘩を見にきた近所の人が、
「危ないからやめなさい。もう、このまま最後までやらせた方がいい。怪我するから、離れていなさい」
と。
10分近く、いや、もっとだったかもしれません。
ニックが相手の首から口を外した時、相手の犬は動けなくなっていました。
ニックは「ハァハァ」と深い呼吸をしながら、相手の犬が立つのを待っているようでした。
僕は、今しかないと思い、ニックを抱き寄せて体を撫でてあげたのです。
ようやくニックの興奮が収まりました。
それから30分後に獣医が駆けつけてくれ、倒れたまま動かなくなった相手の犬の体を指で押し、
「もういかん。体に空気が入ってしまっとる。これは助からん」
ニックは感じ取っていたんですね。僕ら家族と別れることになってしまうのを。
気が立っていたのだと思います。
人は、このような時こう言います。
「自分を見失っていた」
と。
そして、それから2週間後、ニックを引き受けてくれるという友人の家ににニックを預け、
僕ら家族は福岡を発ちました。
つづく
ASKA(2020/4/26 0:46)
獣医さんは、あのような状態からの回復は想像できなかったと言ってました。
その後、回復してからはいつも通りになり、
クロと同じで、どこに行くにもニックは一緒でした。
ただ、不思議と剣道着に着替えて道場に行く時にはついてきませんでしたね。
自分は連れて行ってもらえないところ、
または、ついていかなくても良いところとでも思っていたのでしょうか。
そして、僕が小学6年生になった時、もう1匹「コッカースパニエル」が、我が家にやってきました。
振り返ると、今まで僕は「オス」の犬を飼ったことがないんですね。
その子には「ベル」という名をつけました。
ニックも赤ちゃん犬「ベル」を可愛がっていましたが、
僕もまだ子供でしたので、ニックへの気遣いができていなかったように思います。
犬は、ヤキモチを焼きますからね。やはり子犬は可愛いわけです。
ずいぶん我慢をさせてしまっていたんだろうなと、今でも、そのことを後悔しています。
そして、僕は中学生。
中学になって、すぐの6月ごろだったかな。
父からの家族会議がありました。
「お父さん、今、転勤を命じられてる。お父さんの仕事は自衛官だから、転勤命令が出たら絶対だ。
沖縄か北海道の千歳駐屯地が候補。どっちに行きたい?」
僕が決めることになりました。
「千歳に行ってスキーがしたい」
そう決めたのには、もう一つ理由がありました。
沖縄が日本に返還になる前で、まだアメリカだったからです。
その頃は、もう日本に返還になることは知っていましたが、
そのゴタゴタの中に居たくないという気持ちもあったのだと思います。
北海道まで、父が車を運転することに決まりました。
当然、ニックもベルも一緒だと思っていたのです。
ニックを福岡に残すことを聞かされたのは、転勤1ヶ月前でした。
「小さな車にニックを乗せていくのは無理だ。ベルだけにする」
ワナワナ震えたのを覚えています。
その転勤前の1ヶ月間、ニックにはできる限り優しく接しました。
でも、伝わるんですよ、犬には。何かが起ころうとしていることが・・・。
ニックと別れる2週間前のことだったでしょうか。
近所の住人が駆け込んできたのです。
「お宅の犬が暴れてます!!止めてください!!」
驚きました。本当に驚いた。
あの優しいニックが、その飛び込んできた家の飼い犬の首に噛み付いているのです。
動物は本能でわかっています。首とハラを攻撃すれば、相手の息の根を止めることができることを。
僕が、どんなに静止しても言うことを聞かなかった。
もう、止められないのです。
ニックにとっては、時々一緒に遊んでいる犬でした。
ありえません・・・。
その喧嘩は壮絶でした。
昔の犬は放し飼いでしたので、たまに犬同士の喧嘩は見たことがありましたが、
ニックの喧嘩は見たことがありませんでした。
しかし、今、僕の目の前で興奮状態になっている猛犬は間違いなくニックなのです。
相手の首に噛み付いたニックが何度も何度も体を回転させるのです。
ワニが噛みついた獲物を引きちぎるときにやるような光景でした。
僕は、数回止めに入ったのですが、その喧嘩を見にきた近所の人が、
「危ないからやめなさい。もう、このまま最後までやらせた方がいい。怪我するから、離れていなさい」
と。
10分近く、いや、もっとだったかもしれません。
ニックが相手の首から口を外した時、相手の犬は動けなくなっていました。
ニックは「ハァハァ」と深い呼吸をしながら、相手の犬が立つのを待っているようでした。
僕は、今しかないと思い、ニックを抱き寄せて体を撫でてあげたのです。
ようやくニックの興奮が収まりました。
それから30分後に獣医が駆けつけてくれ、倒れたまま動かなくなった相手の犬の体を指で押し、
「もういかん。体に空気が入ってしまっとる。これは助からん」
ニックは感じ取っていたんですね。僕ら家族と別れることになってしまうのを。
気が立っていたのだと思います。
人は、このような時こう言います。
「自分を見失っていた」
と。
そして、それから2週間後、ニックを引き受けてくれるという友人の家ににニックを預け、
僕ら家族は福岡を発ちました。
つづく
ASKA(2020/4/26 0:46)
COMMENT
ニック(2)のコメント
-
ニックネーム:つきあかり幼い頃から犬たちと共にありました。いつも2、3頭いて、指折り数えると今暮らしている3頭を含め、22頭と縁がありました。
10数年の命ゆえ、19の別れがあって。物言わぬものたちだから余計いとおしく、また憐れでもあり、別れは悲しいまま氷づけになっている感じです。
犬は自分にとり特別。今いる子達をもっと可愛がろうと思いました。 -
ニックネーム:abcravel子犬ベルが可愛くてニックがやきもち、わかります。小学生だもの それは仕方ないですよね。
でもニックと一緒に北海道に行けないと知った時のワナワナ。辛かったですね。
泣けてきます。
そしてニックの変化、、 -
ニックネーム:s.k.ニックかわいそう😥ASKAさんも辛かったですね。なんとかしてニックも連れて行ってあげたい。泣けますね😥
-
ニックネーム:onoduいや~泣ける。
力が入る。
ASKAさん散文詩もいいですけど、
物語もいけそうですよ。 -
ニックネーム:あっこ涙がでます。ニックの気持ち、相手の犬🐶も可哀想ですね😢今まで、生活を共にしてきた家族を置いて行かなくてはならない辛さ😖💦あ~、胸がしめつけられますよね。ワンちゃんは、😺ちゃんもだけど、何も言わなくても伝わってますよね。ニックも辛かったんですね、😢ニックのその後のお話待ってます。🍀😌🍀