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僕ら家族は車で北海道に向かいました。

途中「大阪万国博覧会」を横目に北へ。

東京首都高速は手塚治虫さんの漫画そのものでした。
ビルとビルの間に高速道路があった。

北海道の土を踏んだのは、7日目だったかな？10日目だったかな。
青森から室蘭へはフェリーでしたね。

千歳に到着した日は確か「かめ屋旅館」というところだったかな。

そして、千歳の生活が始まるわけです。
福岡の実家では自分の部屋もあり、家族4人には十分な広さがありましたが、
千歳では「自衛隊官舎」でしたから、2部屋しかないわけです。

月の家賃は「790円」。
そして、そのうち値上がりして「1001円」になった記憶があります。

まぁ、ここでの思い出話しはいいや、

父は、福岡の第四武器隊でしたが、千歳では輸送隊に配属でした。
転勤を命じた父の隊長と父の信頼関係は強く、隊長から、

「お前は転勤させたくない。しかし、一度も転勤させないわけにはいかない。
4年経ったら、また福岡へ転勤願いを出してくれ。必ず戻す」

このような約束があったと聞いていました。

今ではどうかわかりませんが、
当時は、そのような理由、そして約束が許されていた時代でした。

しかし住めば都です。

母は、ちゃっかりしていましたので、官舎に住んでいる間は、生活費も楽ですので、
いつしか福岡に戻るのは、まだ先でいいという考えに変わっていったんですね。

僕は、今では「音楽があってこそ」ですが、
僕の思春期は、北海道では「剣道があってこそ」でした。

高校受験の時に、一人の先生が現れたんですね。

いわゆる特待生です。

その高校は、特待生という言葉はなく「体育奨励生」という言い方をしていました。
先日、恩師から初めて聞かされた話がありました。

「お前をどうしてもウチに獲りたかったので、学校に頼み込んで、剣道部では初めて迎え入れた生徒だった」

と。

その期待に応えるべく、僕は剣道部初の全国選手となり、
インターハイに北海道代表として出場権を得たのでした。

高校2年生の時でした。
父が転勤を命ぜられてちょうど4年目でした。
そのインターハイ開催地が福岡だったのです。
こんな出来すぎた話があるでしょうか？

代表選手となれば、北海道を背負うわけですので、
普通なら、ギリギリまで稽古をして大会に挑みます。

しかし、僕は大会の2週間前に福岡に一人で帰りました。
「帰りました」・・・。
そう。福岡に向かったのではなく帰ったのです。

僕は、父と隊長の話を知っていましたので、
子供の頃から夢見ていた高校生だけが出場できます「玉竜旗剣道大会」に出場するために、
たまたま開催地となった福岡に転校できるよう、父に転勤願いを出してもらったのです。

2週間も早く帰った理由はニックに会うためでした。

4年間、家族から置いてきぼりにされたニックのことを考えると、
1日でも早く帰りたかったんですね。

そうして、福岡に帰った僕は、真っ先にニックに会いにいったのです。

ニックは、友人の家の広い庭で鎖に繋がれていました。

「ニック！！ニック！！」

名前を呼んで近寄ろうとした瞬間、
ニックは一瞬頭を傾げた後、僕に向かって吠え続けたのです。

ショックでした・・・。

これだけ会うのを心待ちしていた4年間が、脆くも崩れてしまいました。

覚えてない・・・。

よくよく考えるとそうなんです。
中学1年生から高校2年はそうですよね。
身長も伸びてる。声変わりもしてる。

ニックには、
その日の僕と、あの日の僕が一致しないのです。

ニックにとっては、

「知らない人が自分の名前を呼んで近づいてきた」

でしかなかったのです。

それはそれはショックでしたが、
元気なニックの姿を確認できたことは嬉しかったですね。

毎日、会いに行きましたから、数日後には、僕には慣れてくれました。
しかし、ニックにとっては、「自分には危害を与えない人」という認識で、僕を受け入れたのでしょう。

僕にとっては、それでも家族。
ニックにとっては、もう別の飼い主となった友人の知り合いという関係になりました。

それでもよかった。
大切な僕の家族。
その後、福岡に戻った家族が会いに行っても、同じような反応でした。

4年って、犬にとっては20年以上の時間ですから、仕方ないですね。
ニックの新しい友達の関係を築きました。

それから4ヶ月経った頃でした。
ある日、夕食を食べている時でした。玄関を叩く音がしたのです。


つづく


ASKA(2020/4/26 13:17)